研究所連携プロジェクトに期待する

 本学では、この4月から新たに工学部がスタートし、本研究所も工学部と情報理工学部合同の附置研究所になりました。一つの悩みは、工学部のキャンパスが豊田と名古屋の2ヶ所に設置されたことで、所員の活動場所も両キャンパスに分かれてしまったことです。今後の研究所の運営には、組織としての一体感を保つ工夫が求められています。
 一方で、昨年度の研究所活性化に関する学長提言以来、徐々にではありますが、学内6研究所間の交流が進んできました。本研究所にも、他の研究所との共同プロジェクトなど、新しい協力関係が芽生え始めています。その一つは、昨年12月にスタートした「五輪史料プロジェクト」です。体育研究所の來田研究室には、オリンピック関係の重要書簡がマイクロフィルムの形で大量に蓄積されています。これほどの書簡データを保有する研究機関は世界的にも稀ですが、人手による分析には限界がありました。そこで、これらを体育研究所と本研究所が共同でデータベース化し、キーワード検索などの手法を用いて他の書簡や史料との関連付けを支援するシステムを開発しようということになりました。システム開発は本研究所の伊藤秀昭研究室が担当しています。これがうまくいけば、オリンピック史において、今まで知られていなかった人間関係や、重要な決定に至るまでのいきさつなどが明らかになるかも知れません。
 もう一つは、今年1月に動き出した「竹炭プロジェクト」です。東北の原発事故以来、放射性物質の除去・除染が大きな社会問題となっています。一方、近年の研究で、“竹炭”がヨウ素やセシウムなどの放射性物質を強く吸着する性質を持つことが分かってきました。そこで、豊田キャンパス周辺の竹林を活用して放射能吸着性に優れた竹炭を製作し、その効果を科学的に検証するとともに、実際の汚染地域で利用してもらおうという話が持ち上がりました。これが「竹炭プロジェクト」です。現在、社会科学研究所、体育研究所、本研究所の3研究所が中心となって進めており、科学的な検証実験は本研究所の野浪研究室が、実際の流通・普及面の検討は社会科学研究所の大友研究室が担当しています。将来は、他の研究所、学生、企業、地域住民、行政などにも広く参加を呼びかけていく予定です。
 このような研究所連携の試みはまだまだ始まったばかりですが、将来その輪が広がり、学内の活性化だけでなく、社会的にも認められるような成果につながっていけばと期待しています。


2013年5月7日
中京大学人工知能高等研究所長 長谷川純一
(工学部教授)